禁断兄妹
第64章 聖戦②
「あの男は、柊兄に恨みを持っていたんだろうか‥‥?」
思わず呟いた俺に
ハイタニが鋭い視線を投げた。
「萌はあの男の存在を知っていたからこそ、柊兄に向ってナイフを投げようとしている事に気が付いたんじゃないのか‥‥?そして柊兄を守ろうと飛び出してきて、頭を打った」
「‥‥」
「勿論あんたもあの男の存在を知っていた。だからこそ、柊兄を庇って倒れた萌を見て、何が起こったのかを瞬時に理解し、迷うことなく男に殴りかかった‥‥違うか?」
「もうやめましょう。
全ては萌さんの意識が戻ってからです。今の段階で私が話せることなど、何もない」
強引に話を終わらせようとするハイタニの様子は
俺の推理が
真実に近づいていることを示しているように思えた。
もっと踏み込んで
真実に近づきかったけど
今の柊兄の前で恨みだのなんだの
憶測でそんな話をするべきじゃないこともわかっていたから
俺は口をつぐんだ。
真実は
どこにあるのか
あの男は
何者なのか
暗くて
顔の造作はわからなかった
でも
あの長身
体格や雰囲気
なんとなく
どこかで見たように感じるのは
気のせい
だろうか
記憶の糸を
手繰り寄せていた俺は
不意に
大事なことを思い出した。
そもそも萌がクラブに来たのは
お父さんの危篤を
柊兄に知らせる為だったと
いうこと
「柊兄、そういえば、お父さんの容態‥‥危ないんだったよね?後で病院に電話してみようね」
柊兄に追い打ちをかけるようで
辛くて
できるだけ
そっと声をかけた。
「それは巽さんのことですか‥‥?巽さんに何かあったんですか?」
思いがけず
ハイタニが声をあげた。
巽さんと親交があるらしく
今日も見舞いに行っていたという
本当かどうかわからないし
一ノ瀬家のデリケートな問題
俺が話すべきことじゃないと思って
黙り込むと
「危篤らしい‥‥萌がそう言っていた‥‥」
ぽつりと
柊兄の声
「そうか‥‥そうだったのか‥‥」
ハイタニは
重いため息を吐きながら独り呟いて
更にその表情を
険しくした。