禁断兄妹
第64章 聖戦②
一人でできると
手続きをしに行った柊兄
しんと静まったロビーの空気は
重苦しい
空気を変えたくて
俺は携帯を取り出した。
「ハイタニさん‥‥連絡先教えてくれる」
俺から少し離れた椅子に
背筋を伸ばし
腕を組んで座っていたハイタニ
眉根を寄せたけど
番号を口にした。
その場で発信すると
着信音が聞こえた。
「俺の番号それだから登録しといて。何かあったら連絡するから、ちゃんと出てよ」
「逃げも隠れもしませんし、萌さんの意識が戻るまでここにいます」
「え?帰んないの?」
「います」
ハイタニは
目を閉じた。
忠犬かよ
「ねえ、『ハチ』タニさん」
呼び掛けると
訝しげに
片目を開けて俺を見る。
「ハチ公ぽいから」
「‥‥」
「キックボクシングか何かやってるの?」
「‥‥総合格闘技を」
「総合か。趣味でやってるの?」
「プロです」
「マジで?ハチタニとか呼んだら落とされちゃうね」
「一般の人にそんなことはしません」
「一般の人、ね。
あんたが倒したあの男は、一般人ではなかった?」
「‥‥」
───全ては萌さんの意識が戻ってからです。今の段階で私が話せることなど、何もない───
あの言葉通り
ハイタニは
核心に触れることを頑なに拒む。
この男は
確かに変わり者だ
けれど
彼が言うように
何か事情があって萌とあの場所にいたに違いない
そう感じてるのは
きっと柊兄も同じ
救急車の中で
お父さんの危篤をハイタニに教えたのは
ストーカーの果てに萌を襲ったと決めつけていた意識が
変化したからだろう
「‥‥私からもひとつ質問をいいですか」
ハイタニが
口を開いた。
「いいかとか聞かなくていいよ」
「メカイ、って何のことかわかりますか?」
「何それ。日本語?」
「ではテカニは?‥‥または類する言葉を知っていますか」
「意味不明なんだけど」
「そうですよね‥‥
すみません忘れてください」
ハイタニは
再び目を閉じた。
変な奴だ
本当に変な奴だけど
萌を心配して帰らずにいてくれることは
正直
心強かった。