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禁断兄妹

第64章 聖戦②



「まだ意識不明だそうだ。美弥子も病院に着いてないらしい」


降ってきた声で我に返ると
柊兄が目の前に立っていた。


「‥‥お父さんのところに行ったほうがいいんじゃない?」


俺は顔を洗うように
潤みかけていた両目をごしごしと擦った。


「萌はさっき一度意識が戻ってるし、大丈夫だよ。ここは俺に任せてお父さんのとこに───」


「向こうの病院には美弥子がもうすぐ着くはずだし、いい」


「でも‥‥」


もし
万が一のことがあったら


「死に目に会えなくなるかもって、言いたいのか?」


言葉に詰まって
柊兄を見上げた。


「最悪の場合の覚悟は、できてるつもりだ」


穏やかな声のままそう言うと
柊兄は顔にかかる前髪をかきあげた。


「それに‥‥父さんが今死ぬなら、死に目に会えないのは萌も同じだ」


言われて初めて
その通りだと
胸を突かれる。


言葉が出てこない俺に
まあ、もしもの時の話だけどな、と
柊兄は呟いて


「もしそうなったら‥‥その時は萌と痛みを分かち合うさ。

 だからいいんだ。俺は萌のそばにいたい」


静かな



「さっきは取り乱したりして、悪かった。

 まだ混乱はしてるけど‥‥もう大丈夫だから」


柊兄は少し黙った後
お前がいてくれて良かった、と
俺に小さく微笑んで見せた。

何も言えずに首を振りながら
胸が熱くなって

その熱が目頭に伝わりそうになって
俺はまた顔を擦った。

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