禁断兄妹
第65章 聖戦③
ここで待っている、と言う和虎を廊下に残し
考えがまとまらないまま
一歩を踏み出した。
廊下とは違い
照明がついていて明るい病室内には
もう一人看護師がいて
ベッドには
仰向けになって
天井を見上げている横顔
「萌‥‥」
無意識に
名前を呼んでいた。
ゆっくりとこちらを向いた小さな顔
寝起きのような夢うつつの表情が
驚いたように
少しだけ目を見開く。
「‥‥お兄ちゃん‥‥」
声は痛々しく枯れていたけれど
俺を見て
ふわりと微笑んでくれた萌に
苦しいほど
胸がいっぱいになって
言葉が
続かない。
萌と目を合わせたまま
引き寄せられるようにベッドに近づいた。
看護師がそばにいるから
俺を柊と呼ばなかったんだろう
ぼんやりしているとはいえ
そういった判断力があるなら
父さんのこともきっと聞いてくるはず
どう答えるべきか
決められない
だけど
萌のそばへ
抱き締めることは叶わなくとも
ただ
その頬に触れたい
「‥‥おかえりなさい」
俺をじっと見ていた萌が
口を開いた。
「うん‥‥?」
伸ばそうとした手が
思わず止まる。
「俺はどこにも行ってないよ」
首を傾げて微笑みかけると
「だって‥‥アルバイトで‥‥帰れないかもって‥‥」
「‥‥?」
「良かった‥‥一人じゃ寂しいもの‥‥」
萌はため息をつくようにそう言うと
瞳を閉じた。
「混乱しているようです。このまま眠らせてあげてください」
看護師が小声で俺に耳打ちする
けど
アルバイトで帰れない‥‥?
一人じゃ寂しい‥‥?
何の話だ
ざわざわと
得体の知れない黒い雲が
胸に広がっていく。
変だ
おかしい