禁断兄妹
第65章 聖戦③
飛びつくように割って入った二人の看護師によって
俺は萌から引き離され
あっという間に
病室から押し出された。
「いやちょっと待ってくれ───」
「まずはゆっくり眠らせてあげましょう。先程も申し上げましたが、脳震盪による記憶障害は一時的であることが多いんです。嘔吐もよくある症状です」
ここまで案内してくれた看護師は
灰谷があの駐車場に呼んだ女性
諭すような言葉と共に
両手で背中を押され
今来たばかりの廊下を引き返す。
「柊兄、何かあったの?!」
何が起こったのか
俺にも
わからない
むなしく持ち上がったままの右手に残る
ひりつく痛み。
「萌がおかしい‥‥様子が変だ」
「変?どういうこと?」
「時間が遡ってる。それに‥‥俺が触ったら、吐いた」
「えっ?」
「あの者がついていますから大丈夫です。行きましょう」
萌
遠ざかる
光の漏れる病室
父さんの死を
伝えるべきか
伝えないべきか
迷っていた
だけど
選ぶことさえできず
───だって‥‥アルバイトで‥‥帰れないかもって‥‥───
───良かった‥‥一人じゃ寂しいもの‥‥───
眠たげな萌の言葉
俺には
心当たりがあった。
───だって‥‥メールで‥‥───
それは五ヶ月ほど前のこと
家を飛び出した俺を懐柔しようと
父さんと美弥子が
萌を残して二泊三日の旅行へ出掛けた。
一人で留守番は寂しいとメールを送ってきた萌に対して
俺は
夕方からバイトが入っていて夜遅くなるし
明日も終日バイトで家に帰れないかもしれない、と
冷たく突き放すようなメールを返した。
その前日に
タカシとじゃれあう萌を偶然見ていた俺は
嫉妬と怒りに支配されて
滅茶苦茶な精神状態だったから
そしてその夜
酔いに任せてマンションに行った俺は
ソファで眠る萌の身体を
欲望のままに
触ったんだ‥‥