禁断兄妹
第65章 聖戦③
その後
医師から説明があったが
看護師と同じようなことをもっともらしく言うだけで
萌がもう一度目覚めるのを待つより術がないことを
再確認しただけだった。
「自力で脱げなかった衣服は鋏で裁ちましたので処分させて頂きましたが、ポケットに携帯電話が入っていました。鞄と一緒に妹さんの病室へ運んでおきますか?」
「ああ‥‥いえ、俺が預かります」
看護師から手渡された
見覚えのある
ピンク色の携帯
着信を見ると
ずらりと並ぶ俺の名前
全て
不在着信
萌に何があった
ポケットに入れていながら
どうして電話に出なかった
それとも
出れなかったのか
失意の中
再びロビーに戻ると
灰谷はまだそこにいて
俺を横目で見ている。
萌の為にここにいるのか
俺を監視してるのか知らないが
もうどうでもいい
好きにすればいい
腰を下ろし
再び萌の携帯を操作する。
俺と別れてクラブから走り去った後
萌はどこにも電話をしていないし
俺以外からの着信もない
不審なメールもなく
萌の身に何が起きたのか
わかるような糸口は見当たらなかった。
「和虎‥‥俺、向こうの病院に行ってくる。お前も帰って休んだ方がいい」
「うん。でも俺は始発までここにいさせてもらうよ。
何かあったら連絡するし、そっちも連絡して」
「ああ。わかった」
美弥子にはさっきの電話で
萌は俺と一緒にいるとだけ伝えてある。
気が動転している美弥子は
泣きながら
うん、うん、と繰り返すだけだったけど
これ以上
隠し通せる訳もない。
萌が頭を打ち
この病院に入院していることは
話すべきだろう。
しかし伝え方は
慎重に考えなければ
「じゃあ、いってくる‥‥」
俺は重たい身体に鞭打って
立ちあがった。
萌の携帯をポケットやバッグにしまうのが嫌で
手にしたまま
歩き出す。
馬鹿げているかも知れないが
手にしていると
萌と繋がっていられるように思えた。
さあ
行こうか萌
降りだした雪の中
俺は父さんのもとへと
向かった。