禁断兄妹
第66章 罪と罰
美弥子は
父さんがいた病室で
明かりもつけず
窓の外を見ていた。
日曜日に
見舞いに来たばかりの部屋
目に入る
空のベッド
綺麗に整えられた寝具
いない
本当にいない
───柊‥‥よく来てくれたなあ‥‥───
このベッドの上で身体を起こし
俺を迎えてくれた父さん
穏やかな声も
笑顔も
まだ鮮やかなまま
胸に残っている。
父さん
打ち寄せた高波が
喉の奥を揺らし
熱くなった目が
全てを滲ませそうになる。
しっかりしろ
柊
俺は強く息を吐いた。
「悪い。遅くなった」
美弥子は
ゆらゆらと首を振った。
「巽さんね、今綺麗にしてもらってるの‥‥終わったらそのまま家に連れて帰るから、家でゆっくり会ってあげて‥‥」
真っ赤に泣き腫らした目
歩み寄る俺を見て
そして俺の後ろを覗くように
視線をさまよわせる。
「萌は‥‥?」
「ああ。実は‥‥」
俺は
萌が危篤を知らせに仕事場まで来てくれたこと
その帰り道に足を滑らせて転び
頭を打って怪我をしてしまったことを
手短に話した。
俺に身体をぶつけてきたことで
頭を打ってしまったことや
記憶障害については
伏せることにした。
「脳震盪を起こして、運ばれた××病院で眠ってるんだ。何針かは縫ったけど、脳に異常はないらしい」
美弥子はひどく驚いて
今にも倒れてしまいそうだったから
とにかく座るよう促した。
「本当に大丈夫なの?後遺症とか、大丈夫なの?」
「大丈夫だから、落ち着け。
朝になったらまた様子を見に行って来る。その時には退院できると思う」
「巽さんが亡くなったことは?知ってるの?」
「‥‥まだ伝えてはいない。目が覚めて意識がしっかりした状態の時に、伝えるよ」
「そう‥‥」