禁断兄妹
第70章 謙太郎と手紙
お花畑の真ん中に
お父さんの写真
お坊さんのお経
お話
背中を抱いてくれるお母さんの胸に
顔をうずめて
赤ちゃんに戻ったみたいに泣いて
夢の中
海の底
漂ううちに
いつのまにか
お通夜というものは終わっていた。
お坊さんやお葬式の会社の人もいなくなって
私とお母さんとお兄ちゃん
三人だけ
お父さんの両親も
お母さんの両親も
私が生まれる前や赤ちゃんの頃に亡くなっているし
親戚も
お客さんもいない
こういう式がいいと
この場所も全部お父さんが自分で決めたんだって
お母さんが教えてくれた。
「上は宿泊施設になってるから、今日はここに泊まるのよ」
「やだ‥‥」
帰りたい
ここは
嫌
「萌、」
お兄ちゃんの声に
肩が震えた。
「大丈夫か‥‥?頭は痛くないか」
きっと心配そうに私を見ている
そんな声
お母さんの胸にぎゅっと顔を埋めて
聞こえない振りをした。
心臓がばくばくと波打つ。
───萌、俺の言うことが聞けないのか?!───
───萌!!───
───聞け萌!父さんはな‥‥父さんは亡くなったんだ、今日の夜が、通夜なんだ‥‥っ───
怒鳴るようにそう言って
手にしていたバッグを投げて
病院の部屋を出て行った
あの時のお兄ちゃん
すごく怖かった。
でもその後
看護師さんに着替えさせてもらった私が
車椅子に乗せられて病院から出ると
外で待っていたお兄ちゃんはもう怒ってはいなくて
長い時間待ってくれていたせいか
疲れきったような表情で
目が
赤かった。
萌、って私を呼んで
苦しそうに言葉を探して
それきり何も
言わなかった。
私も
何も言えなかった。
「‥‥母さん、萌と一緒に上で休むといい。俺はここにいるよ」
お兄ちゃんは
私が男の人が怖いって言ったから
気を遣ってくれてる。
優しい
それはわかってるけど
姿も声も
昨日までと違う
すごく大人に見えて
そのせいか
私の頭と胸がざわざわして
怖くて
近寄ることもできない。