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禁断兄妹

第70章 謙太郎と手紙



震える足に力を入れて
とにかく立ち上がった。

二階へ行ったお母さんは
私がいないことに驚いて
もしかしたら一階にいたんじゃないかって
話を聞かれてたのかもって
きっと心配する。

ここから離れなきゃ

荒い呼吸を隠すように
両手で口を覆って
歩きだした。

指にかかる息が熱い

全然寒くない


ふらふら歩きながら
さっき見た
お父さんの顔を
思い出す。

私は昨日家に帰って来た時から
お父さんの顔を
見ていなかった。

怖くて
絶対無理って思ってた

でも
さっき初めて
一瞬目に入ったお父さんの顔は

穏やかで
眠ってるみたいだった。

少し痩せてたけど
お父さんは
お父さんのままで

いってくるよって微笑んでた
大好きな
お父さんのままで───


「萌‥‥?!」


顔をあげると
お兄ちゃんが
駆け寄ってきた。


「お前どうした、コートも着ないで!」


お兄ちゃん‥‥


「泣いてるのか‥‥?あの場所に居たくなかったのか‥‥?」


自分が着ていたコートを脱ぎながら
私の数歩前で足を止めて
しゃがみこむ。


「指が冷たいんだろ。ほら、これを着て」


腕を伸ばして
差し出されたコート

いつもみたいに目が合わせられなくて
袖で目を擦りながら首を振ったけど
いいから着なさい、ともう一度言われて
受け取った。

見守られながら羽織ると
ふわっと香水の香りがして

さっきのドキドキと
今のドキドキで
息が苦しい。


「コンビニで朝飯買ってきたんだ。萌の好きなイチゴ味のヨーグルトもあるぞ」


優しい声に
胸の奥が揺さぶられて
新しい涙が込み上げる。


まただ

お兄ちゃんを前にすると
頭と身体が変になる
不安定になる

訳がわからなくて
怖い


胸の奥で
叫んだり暴れたりしてるものと一緒に

何もかも
わあっと溢れ出てしまいそうになる

それがたまらなく

怖い




───第70章 謙太郎と手紙 END───

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