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禁断兄妹

第71章 君が方舟を降りるなら



お兄ちゃんの誕生日もクリスマスもお正月も
普通の日のように静かに過ぎて
今日はもう一月四日。


「こんにちは、萌さん」


エントランスホールに降りていくと
灰谷さんがいた。


「あっ、こんにちは灰谷さん」


灰谷さんに会うのは
年が開けてから初めてだった。


「どうですか、傷の具合は」


「大丈夫です。もう痛くないです」


私が怪我をした時
灰谷さんはお兄ちゃんや和虎さんと一緒にその場にいて
色々助けてくれたのだと聞いた。


「無理はしないようにしてくださいね。私との会話も負担になるようなら、スルーしてくれて構いませんから」


事情を知っている灰谷さんは
色々気遣ってくれるから
大きな身体から感じる恐怖感が和らぐ。


「あの、この前テレビでやっていた大晦日の試合、勝ちましたよね。おめでとうございます」


「えっ、ありがとうございます。見てくれてたんですか?」


「音だけなんですけど、聞いて応援してました。テレビの画面はちょっと見れなくて‥‥」


大晦日の夜は
家にお兄ちゃんの友達の和虎さんが遊びに来て
みんなはテレビを見て応援。

私は逞しい男性の上半身とかがだめだったから
テレビ画面が見えない位置に座って
音だけ聞いていた。


「アナウンサーの解説やお客さんの声援だけでも、試合の様子はよくわかりましたよ」


お兄ちゃんは静かに見ていたけれど
和虎さんとお母さんは意気投合してとても盛り上がって
おかげで家の中は
久しぶりに楽しい雰囲気だった。


「萌さんああいうのは苦手だろうから、テレビもつけてないだろうなって思ってたんですが‥‥そうですか、聞いてくれてたんですか」


嬉しいなあ、と
はにかんだ笑顔で呟くと
灰谷さんはその優しい瞳のまま
私を見た。


「‥‥お兄さんは、お元気ですか?」


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