禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
「逆にすみません、ご家族のプライベートなお話に触れることになってしまって」
「タカシ君は何も悪くないんだから謝らないでね。
それだけ萌のことを心配してくれてたってことだし、ありがとうね」
「ねえ萌ちゃん、昨日の電話で言ってたけど、思い出すのが怖いって感じたり、気分が悪くなったりすることもあるんだよね?
今も本当は、気分が良くないんじゃない?」
たかみちゃんの自然な口調に
思わず正直に頷いた。
「‥‥うん、ごめんね、ちょっと良くないかも」
「萌ちゃんを中心にした話をするのは、まだ刺激が強いのかも知れないね。
萌ちゃんの周りの動きだけをお喋りする形にしようか。その七月一日以降の部活のこととか、友達のこととか」
「それなら、大丈夫だと思う」
「オッケー、じゃあそうしよう。でももし具合が悪くなったら、ちゃんと言ってねっ」
「うん。ありがとう、たかみちゃん」
さっきお母さんが言っていた『とても大事な話』にも
胸騒ぎは消えないし
立ち尽くしたままのお兄ちゃんの視線は
ひりひりと肌を焦がすけど
いつもと変わらないたかみちゃんの笑顔は
気持ちを落ち着かせてくれる。
「本当ごめんな、俺が一気に色々喋ったから」
タカシ先輩が
心配そうに私を見て
「気をつけて話さなきゃいけないってわかってたのに、俺、あの日のあたりのことがずっと気になってたから、つい止まらなくなって」
正直な先輩
「いえ、先輩は何も悪くないです。
出だしからこんな状態で、私のほうこそすみません。気持ちの整理が、まだついてないところがあって」
「それは当然だと思う。
わかる、なんて軽々しく言うべきじゃないかもしれないけど、わかるよ。と言うか、わかりたいと思ってる」
「萌ちゃん、私もタカシ先輩とおんなじ気持ち。私なりにわかってるし、わかりたいと思う」