禁断兄妹
第71章 君が方舟を降りるなら
投げかけられたお母さんの声
みんなの視線に手を引かれるように
私もお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんは眩しそうな表情で
静かに
私を見つめていた。
瞳の色が
あまりにも切なくて
息が
時間が
止まる
「‥‥萌は小さい頃から音楽をやって来た訳じゃないから、いっぱい頑張らなきゃいけないな‥‥」
「‥‥!」
しんとした身体の中
どくん、と
心臓が飛び跳ねた。
「叶えたい望みや夢があるなら、しっかりと胸に描いて、努力を根気よく積み重ねていきなさい。
それがいつの間にか階段になって、必ず手が届くようになるから‥‥」
深く
包み込むような声
暖かな微笑み
「‥‥っ」
この言葉を私は知っている
頭では思い出せない
でも
身体は覚えてる
「楽したり、ずるしたりはしないこと。努力の積み重ねだけが、階段を作るんだ。
‥‥頑張りなさい。応援してるよ。心から、応援してる」
この時のお兄ちゃんの表情を
私は一生忘れないだろう
「‥‥っ、うっ‥‥」
心も身体も
激しく揺さぶられて
込み上げる言葉にならない感情は
涙になって
どっと私から溢れ出た。
「うっ、うわあああん‥‥っ!!」
「一ノ瀬‥‥っ?!」
みんなの慌てた声
大声で泣きながら
意識が
みんなの声が
遠のいていく──‥‥
お兄ちゃん
私は何もわからない
何も
それでもいいの
応援してくれるの
お兄
ちゃん