禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
『私も音大に行きたいんですっ、個人レッスンとかも、そういうの、知りたいんです‥‥!』
『うん‥‥フルートが好きなの‥‥フルート奏者になるのが、夢‥‥』
自分の夢を思い出した萌
俺は
初めてそれを聞いた時と同じ言葉を
萌に送った
夢と一緒に
俺との愛も
思い出して欲しくて
大声で泣き出して
気を失ってしまった萌に
俺は
記憶の扉が開いたショックで気を失ったのかも知れない
目覚めたら思い出しているかも知れない
と
期待していた
期待してしまっていた
でも状況は
変わらなかった
ぎくしゃくと俺を避け
目を逸らす
変わらなかった
何も
『もう少し時間がたてば、きっと全部が自然に受け止められるようになると思うの。
それまで、もう少し時間が欲しいの‥‥』
わかってる
わかっているんだ
萌の心と身体は
あの凄惨な夜を思い出しても耐えられるよう
時間を必要としている
耐えられるほどに心と身体が癒えたなら
全てを自然に思い出す
俺との愛を思い出す
わかってる
信じてる
信じているけれど
揺れる
揺れてしまう
傷が癒えるまで
どれほど時間がかかるのだろう
今日か
明日かと待ち続けて
もう一ヶ月以上
まさかこのまま
小舟は
揺れる