禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
「お医者さんは自然に戻るって言ってるんでしょ?焦らず待つしかないよね。
フルート奏者になりたいっていう夢も思い出せたんだし、これから柊兄とのことも思い出すよ。しんどいけど、本当しんどいと思うけど、もう少しだよ」
「そう信じたいな‥‥俺がニューヨークへ行く前までには、記憶が戻って欲しい‥‥」
愛する萌に伝えたい
俺はこのチャンスを必ずものにすると
あの日誓った通りに
世界中のランウェイを歩いてみせると
萌との愛を
未来を
心から信じてるからこそ
今がどんな状況だとしても
俺は行くんだと
「父さんが亡くなったばかりだし、萌はああいう状態だし、女二人だけの生活は心配だ。
俺がいない間は、何かあったら和虎を頼るように伝えるつもりだから、よろしく頼む」
「任せといて。まめに電話したり顔だしたりして、状況確認するよ」
和虎が二人のそばにいてくれると
この状況で日本を離れることの不安が
多少はやわらぐ。
「大丈夫だからね、柊兄。
今日本を離れるのはすごく勇気のいる決断だったと思うけど、間違ってなかったと思える日が、必ず来るからね」
間違ってなかったと思える日が
必ず
胸が熱くなって
何も言えなくなって
俺は天を仰いだ。
「柊兄、俺の前では虚勢張ったり強がったりしないで欲しいと思ってるから、不安でも何でも話してくれて嬉しいよ。俺は全力で慰めるし、応援するし、サポートする」
少しの間をおいて
和虎は穏やかに言葉を続けた。
「たださ、忘れないで。
柊兄には、柊兄自身が光となって、自分もみんなも照らす力があるってこと。
真っ暗闇なら、柊兄が光を放てばいいんだ。
柊兄は、それができる人なんだよ‥‥」
───君が方舟を降りるなら③ END───