禁断兄妹
第73章 君が方舟を降りるなら③
「日本の仕事もやるから多少の行き来はあるけど、来月からは基本的に向こうでの活動になるな」
「大筋では前から聞いてた話だけど、一気に具体的になったね。まずはおめでとうだね」
「ありがとうと楽観的に言えるような心境じゃないけどな‥‥真っ暗闇の中を手探りで進んでる感覚だ」
望む未来に繋がると信じて
足を動かしてはいるが
いまだ光は見えてこない
俺がそう言うと
柊兄の歩く道は萌との幸せな未来に繋がってるよ、と
力強く返す和虎
「日本を発つ日は空港まで送らせてね。車出すから。
萌と美弥子さんにはもう話したの?」
「明日時間が取れるから、伝えようと思ってる」
「二人ともびっくりするだろうし、寂しがるだろうね」
「どうかな‥‥相変わらず萌には避けられているから」
萌の出生の秘密について、三学期が始まる前に美弥子が改めて萌に話したことで
更に避けられるようになってしまった。
腹違いの兄という事実に
家族という安心感が揺らいだんだろう。
「寂しがるに決まってるよ。
大晦日にお家にお邪魔した時に思ったけどさ、萌は柊兄のことすごく意識してるんだ。でも男性恐怖症みたいな感覚もあるし、どう接していいかわからなくて、つい避けちゃうんだよ。
まだ記憶が戻ってないんだから仕方ないよね。混乱してるんだよ」
「お前の言う通りだと思う‥‥わかってはいるんだ。いるんだけどな‥‥」
目を合わせてくれない
近づくこともできない
優しく話しかけてもすぐに会話は途切れ
萌は逃げるように自分の部屋にとじ込もってしまう
「どんな態度を取られても平然として、大きな心で見守ってることをアピールしてるつもりだけど‥‥さすがにめげそうになるよ」
思わず苦笑する。
「柊兄‥‥」
「‥‥どうして記憶が戻らないんだろうな‥‥」
どうして
無意識に繰り返してしまう
答えを探せばいつも
自分のせいだと自分が嗤う