禁断兄妹
第78章 恐れずに進め
発車のベルのように
鳴り響く鼓動
私は部屋へ入ると
クローゼットの奥にある鍵つきの箱に
手を伸ばした。
「確かこの中に‥‥」
中学一年生くらいまでは頻繁に開けては閉めていた
大切な宝物を入れておく箱
でも大人になるにつれ
年々開けることが少なくなっていき
いつしか全く開けなくなって
もう何年経つのだろう。
開けた箱の中には
あの頃好きだったアイドルの写真
とっておきの包装紙やリボン
綺麗なビーズを集めた小瓶
私は大人になってしまった
だけど
大人になったからこそ
できることがあるの
「あった‥‥」
薄いブルーの名刺
握り潰したようなたくさんの折り目があって
それを丁寧に伸ばしてあって
『Lilyメンタルクリニック 心理カウンセラー 豊原ゆり子
───お一人お一人の悩みに寄り添ったカウンセリング───
───催眠療法で、幼少期や過去のトラウマ・心の傷を癒し、ストレスを開放します───』
頭に怪我をし記憶を失った後に
自分の鞄から出てきたこの名刺
いつ誰からもらったのか覚えていないけれど
目にした時
催眠療法という言葉に心が動いたのを覚えている。
でも足を運ぶ勇気はなく
この箱の中へしまって
そのままになっていた。
ここへ行けば
記憶を取り戻せるかもしれない