禁断兄妹
第78章 恐れずに進め
それから
これも
箱の一番底に眠る
ラベンダー色のハンカチに包まれた
一通の手紙
ここへ入れて以来
初めて手に取る。
お父さんのお葬式の時に
棺に入れて一緒に焼かれるはずだったのを
私がこっそり持ち帰って
七年間
ずっとこの箱の底で
眠り続けてきた。
そっとハンカチを開くと
白い封筒に『謙太郎へ 夏巳』の文字。
「綺麗な字‥‥」
夏巳さんは
お兄ちゃんの本当のお母さん
お兄ちゃんが小さい頃に亡くなっている。
タッチャン、ナツ、ケンと呼び合っていた三人
謙太郎さんはお父さんと夏巳さんの共通の友人のよう
この手紙は夏巳さんが亡くなる数日前に
謙太郎さんに宛てて書いたもので
お父さんが夏巳さんのお墓の中に封じ込めていた
お母さんは謙太郎さんとの電話の中で
そう話していた。
───『手紙を謙に返して、そして謙に聞きたいことがある』‥‥巽さんはそう言っていました───
───『真実が明らかになることで、傷つく人間がいるかも知れない。
俺もその一人だ。
でもその真実を必要としている人間もいるんだ。救うことができるかも知れないんだ。
とにかく謙と話さないことには、何も始まらない‥‥』
謙太郎さん、この言葉を聞いて、どう感じましたか?
あなたはもしかしたら、巽さんが何を聞きたかったのか、わかるんじゃありませんか‥‥?───
お父さんの最期の望みを叶えようと
必死に訴えかけていたお母さんの声を
思い出す。
謙太郎さんは
わからない、と答えた。
そして手紙も
読む資格がない、と言って
お父さんの棺に入れて焼いて欲しいと言った。
謙太郎さんは
今もそう思っているんだろうか
あれから七年
私と同じように
気持ちに変化はないだろうか
焼いて欲しいと言ったことを
後悔してはいないだろうか‥‥
「記憶を取り戻せたら、あなたを読ませて。いいよね‥‥?」
この手紙と真摯に向き合い
そしてもし私に何かできることがあるなら
したいと思う。
謙太郎さん
夏巳さん
お父さん
そして
真実を必要としている人の
為に