禁断兄妹
第78章 恐れずに進め
その翌日
私は名刺のクリニックへ予約の電話をした。
電話に出たのは
心理カウンセラーの先生ご本人。
「そんなに緊張しなくていいですからね。世間話でもするような、気楽な気持ちで来てくれればいいんでね」
受付もカウンセリングも一人でやっている小さなクリニックだそう
落ち着きのあるさばさばとした印象の先生で
話しやすい雰囲気。
「ご相談内容は、どういったことになりますか?もし今言えるのであれば、お聞きしてもいいですか?」
「あの、催眠療法に興味があって‥‥
私は頭を打つ怪我を七年前にしたんですが、その前の半年ほどの記憶を失ってしまったので、記憶喪失ということになると思うんですが、それを取り戻したくて‥‥」
「なるほどですねー。うん。戻る可能性はありますよ。やってみましょうね」
「はいっ」
私は大学の授業とフルートのレッスンもあるから
それ以外の都合の良い日にちを伝えて
予約の日時を決めた。
「お名前を聞いていませんでしたね。教えてください」
「はい。一ノ瀬萌です」
私が名前を言うと先生は
一ノ瀬萌さん‥‥と言って
少し黙った。
「一ノ瀬さんって、弘至(ヒロシ)君のお友達ですかね?灰谷弘至」
「えっ」
突然飛び出した
思いがけない名前
「は、はい、灰谷さんはお友達と言うか、とてもお世話になっている方です」
「私は弘至君より年上ですけど、まあ幼馴染というか、家族ぐるみの付き合いがありましてね。
あなたのこと、聞いていますよ。随分前の話ですけどね。クリニックの名刺を渡すつもりだから連絡が行くかも知れない、もし行ったらよろしく頼むって」
「そうなんですか‥‥」
この名刺は
灰谷さんがくれたものだった
思いもしなかった展開