禁断兄妹
第81章 つがいの鳥③
「由奈!」
通された霧島組事務所の
幹部専用の部屋
大きなコの字型のソファの真ん中に座っていたおじいちゃんが
満面の笑みで立ち上がった。
「おじいちゃん‥‥!」
「おお、おお、由奈!またえらくめかしこんできたなあ!着物姿がよく似合っとる!えらく綺麗な姐さんだ!」
いつもの豪快な声を喜びに弾ませて
もどかしそうに足早に歩み寄ってくると
よく来た、よく来た、と
私を抱き締める。
「ご無沙汰しています。お邪魔します」
「ご無沙汰も過ぎるじゃねえか!ええ?元気だったのか、由奈ぁ」
おじいちゃんは腕の中の私をゆすり
背中をぽんぽんと叩く。
こんなに喜んでくれるなんて思ってなかった
七年も帰らずにいたことに
胸が痛んだ。
「心配させてごめんなさい。元気だったわ」
「どら、顔見せろ由奈、うん?」
囲っている腕を緩め
私の顔を覗き込む。
「‥‥はねっかえりの頃と、随分変わったなあ。儚げな色気がついとるわ」
目を細め
しみじみと私を眺めるおじいちゃん
皺も
白髪も
増えた
「七年も経てば、少しは変わるわ」
「こりゃあ神楽の倅が入れあげるはずだ。細面の柳腰、なよなよしとって壊れもんみてえで男を放っておかん」
「ふふ、それ褒めてるの?」
「褒めとるさ。なあ修斗?」
おじいちゃんは
修斗を振り仰いだ。
壁際に
直立不動で立っていた修斗
「はい。変わらずお美しくていらっしゃいます」
修斗
その強い視線は
部屋に入った時から
痛いほど感じていた。
精悍さを増した顔つき
一回り大きくなったように感じる
広い肩
厚い胸板
冷ややかな三白眼が
狂おしいほどの熱を帯びて
私を見つめている。
「修斗とも久しぶりだろう。こいつは組長になったんだぞ。知っとるか」
私から瞳をそらさない修斗
修斗
懐かしい
あのワンルームの部屋
ラグの上の小さなテーブルで
二人で食べたご飯
夢と希望
幸福と絶望
ただ全てが懐かしく
遠い
「‥‥知ってるわ‥‥」
「この若さで組長を引き受けるのはたいした胆力だ。まあ俺の引き上げもあるが、上からも下からも一目置かれて頼りにされとる。霧島組も安泰だ」
「勿体無いお言葉です。ありがとうございます」