禁断兄妹
第82章 つがいの鳥④
そして私は霧島の事務所を出て
神楽の家へと帰って来た。
冬の日差しはもう傾き始めて
夕暮れの気配
三階にたどり着き
リビングへ入ると
窓際に
スーツ姿の臨一朗が立っていた。
「おかえり、由奈ちゃん」
「帰ってたの?」
「うん」
平日の臨一朗が家に帰ってくるのは
夜の八時くらいなのに
私を心配して
仕事を早く切り上げたんだろうか
ソファにバッグを置いて
臨一朗の隣へ
「ここから由奈ちゃんの車が戻ってくるの見てたよ」
「出入り口が見えるものね」
「うん」
三面採光の広いリビング
南向きの大きな窓は通りに面していて
車が出入りする正面玄関が見える。
臨一朗は
穏やかな横顔を見せて
暮れゆく街を眺めている。
「由奈ちゃんも、喧嘩してリンが出て行った時、この窓のそばに立って、ずっと外を見てたよね」
「え‥‥?」
臨一朗は
通りの向かい側のマンションを指さした。
「リンは向かい側の、あのマンションの部屋も持ってるんだよ。由奈ちゃんと結婚する前によく使ってた。
喧嘩した時に、リンはあそこで寝泊まりして、事務所に通ってたんだよ」
「そうだったのね‥‥」
そんな近くにいたなんて
思いもしなかった
「あの二日間、朝とか夜とかリンが窓の外を見ると、いつも由奈ちゃんの姿が見えるの。なんだか天気が悪くて、ずっと雨だったよね。窓際なんかにいて体が冷えちゃわないかなって、心配だったよ」
そう
あの二日間私はここで
ずっと窓の外ばかり
見てた
「リン君どこに行ったのかなあって、思って‥‥」
「うん。リンを待ってくれてるのかなって、すごくすごく嬉しかったよ。由奈ちゃんが寝るまで見てたら、寝不足になっちゃったよ」
臨一朗が家に帰って来なかった間
私はずっと
ぼんやりとしていた
今考えるとそれは
半身が失われたような
喪失感だった。
「ありがとう。由奈ちゃん」
私達はいつものように向かい合った。
「私こそ。霧島に行かせてくれて、ありがとう」
臨一朗は静かに微笑みながら
お姫様の手を取るように
そっと私の手を取り
スーツの胸元から取り出した封筒を
私の手のひらに乗せた。
「これは何‥‥?」
「離婚届」