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禁断兄妹

第86章 時を越え運ばれし手紙、それは運命の書



 シングルマザーとなった母親に連れられて、君達兄妹が俺の家の近所に引っ越してきたのは、俺が高校三年の頃だったな。
 君は小学四年生、三つ下の夏巳は小学一年生。
 俺の母親と君の母親が仲良くなったことをきっかけに、家族ぐるみの付き合いが始まったね。
 君達の母親は母子家庭を支える為に懸命に働いていて、いつも忙しかった。君はまだ幼いながら、家の手伝いをし、夏巳の面倒をよく見ていた。中学に入るとアルバイトもして家計を助けていたね。

 君は世間に対しての怒りを内に秘めたような、とても冷たい目をして、全く笑わない少年だったけれど、妹の夏巳を見る時だけは、優しい目をしていた。
 夏巳はいつも元気で、よく笑っている子だった。親からの愛情は十分ではなかったかも知れないが、君からの愛情をしっかりと受けていることは、素直で天真爛漫な性格や、母親よりも君を慕い甘えている様子を見ていれば、良く分かったよ。
 
 人懐っこい夏巳は俺の家族や俺にとてもよくなついて、母親の帰りが遅い時などに俺の家で過ごすことが多くなった。一人っ子だった俺は可愛い妹ができたようで、とても嬉しかった。でも君は、夏巳のように俺の家に寄りつくことはなく、まったく心を開いてくれなかったね。
 俺の家で過ごした夏巳を迎えに来る時の君は、感謝の言葉を口にしながらも、敵意さえ感じるほどの冷たい視線を俺に向けてきた。幼くして苦労をしている君の心情を思えば、そんな態度も仕方のないことだったのだろう。

 君達兄妹は幼い頃から目鼻立ちが整っていたけれど、中学、高校と成長するにつれて、誰もが目を見張り心奪われるほどに、美しく成長していった。
 君は夏巳へ変わらず深い愛情を注ぎ、夏巳は心から君を慕い。
 君達兄妹があまりにも美しいばかりに、仲睦まじく寄り添う姿には、聖域という言葉さえ浮かんだ。互いを名前で呼び合っていることもあって、兄妹と知らなければ恋人同士だと思うほどの、二人だけの甘美な世界がそこにあった。
 俺は感嘆すると同時に、妬ましさや疎外感を感じていたことを告白するよ。
 君達の絆は、君達にしかわからない苦労の中で生まれ、育まれていったものだ。揺るぎない信頼と愛情で固く結ばれたそこに、俺など入り込む隙間はないように思えたものだ。

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