禁断兄妹
第88章 ギフト
一気に溢れかえる
膨大な量のシーン
音
感情
押し流され
沈み
ぐるぐると目が回って
もがいて
もがいて
もがき続けて
「はあっ、はあ、はあ‥‥っ‥‥」
荒れ狂う高波が
少しづつ引いていく
やっと波間に
顔を上げて
「‥‥先生、私‥‥っ」
「うん」
「思い‥‥だしました‥‥全部‥‥」
「うん‥‥」
「男の人が追いかけて来たんです、その人に騙されて、知らないところへ連れていかれて‥‥車の中に押し込まれました‥‥」
「うん‥‥怖かったね‥‥とても怖かったね‥‥」
「その人は、柊に逆恨みしていて、柊への復讐の為に私を‥‥っ」
身体中が震え
肌は粟立ち
また吐き気が込み上げる。
記憶を失ってから
男性に恐怖感を持ったり
思い出そうとすると吐き気を感じていたのは
この男から受けた恐ろしい仕打ちが原因だった
「あなたは何も悪くないのに、理不尽な暴力を受けてしまったのですね‥‥」
まざまざと蘇る
口内を這い回った男の舌の感触
かけられた精液の匂い
腕を縛られ
両足の上に乗られた激痛
制服を切り裂かれ
握り潰すように胸を掴まれた
全てが無慈悲なシャッター音で切り取られ
お父さんの大事な手紙まで奪い取られて
勝手に読まれて
───返さない。絶対にな───
───もう一度父親に書かせればいいだろう?‥‥今頃死んでくれてりゃ、願ったり叶ったりだがな───
「お父さんの大事な手紙も、その男に奪い取られたんです‥‥っ」
あの時の恐怖
絶望
全てが生々しく蘇って
痛みと苦しさに
気が遠くなりそう