禁断兄妹
第88章 ギフト
先生の話を聞きながら
私は
お父さんとお母さんが旅行に出かけた日の夜
ソファで寝ていた身体を
柊に淫らに触られたことを
思い出していた。
あれが私にとって
初めての性的な体験
その記憶が残っていると
あの男から受けた恐ろしい仕打ちも思い出しかねないから
柊に身体を触られた日まで遡って
私の本能は記憶を封じ込めたのだろう
それほど
性に対する恐怖感や嫌悪感が
強かったということ
「わかりました。気をつけます」
「今すぐにでも彼のもとへ飛んでいきたいあなたに、酷なことを言っているのは重々承知ですが、大事なことなのでね。とにかく焦らないことです」
優しく微笑む先生は
あえて誰とは言わないけれど
私のパートナーは柊だともう察しているはず
先生の眼差しは
大きくて温かい
「ところで彼は、あなたが事件に巻き込まれたことを知っているのでしょうか」
「きっと、知っていると思います」
あの時の私は
襲われた事実をどうしても柊に知られたくなくて
柊を傷つけたくなくて
誰にも言わないで欲しいと灰谷さんに泣いて頼んだ
でも
柊は知っているはず
灰谷さんから
どんなことをしてでも聞き出したはず
愛する私に何が起こったのか
知らぬまま生きていくことを
柊は選んだりしない
ずっと柊を見てきた今
はっきりとそう思える
「彼が知っているのなら、二人で協力しあうことができますね。
愛を確かめ合いながら、一緒に一歩づつ階段を上る様に、進んでみてください」
「はい、そうします」
「何か困ったことや相談があればいつでも連絡をください。困ったことだけではなく、あなたの幸せな報告でもいいですよ。ぜひ聞きたいものです」
先生は言葉を続けながら立ち上がって
窓のほうへ歩いていった。
閉めていたカーテンが開かれて
眩しい光が差し込む。
「ああ、いい天気ですね。あなたを祝福しているようです。
そして‥‥あー、うん。やっぱりねえ」
先生は笑いながら
窓の外を見下ろしている。
「‥‥?」
「あなたの熱烈なファンが出待ちしていますね。追い払いましょうか」
「えっ?」