禁断兄妹
第88章 ギフト
先生に心からの感謝を伝え
私はクリニックを後にした。
エレベーターを待つのももどかしくて
階段を駆け下り
回転扉を抜けて
「灰谷さん!!」
「っ!!」
ビルの壁にもたれ俯いていた大きな身体が
飛び上がった。
「も、萌さん」
いつものパティシエ姿に
コートを羽織って
「あの、待ち伏せみたいなことをしてすみません、どうしても落ち着かなくて、我慢できずに店を飛び出して来てしまって───」
「‥‥ありがとう‥‥」
あたふたと揺れていた瞳が動きを止め
見開かれた。
「灰谷さん‥‥あの時助けてくれて、ありがとう‥‥」
瞬きもしない大きな瞳が
紅く潤んでゆく。
「あの時も、灰谷さんが来てくれたから、私は助かったんです‥‥本当に、ありがとう‥‥」
取り戻した記憶の中には
灰谷さんとの出来事が
たくさんあった
最初は恐怖の対象だった灰谷さん
だけど
不器用なほどまっすぐで
純粋な心を持つ人
もう私は
知っている
「記憶を、取り戻せたんですね‥‥?」
「はい。全て思い出すことができました」
「そうでしたか‥‥」
深く感じ入った声
灰谷さんの瞳が
気遣わし気に細められる。
良かったですね、とは
単純に口にしない
それは灰谷さんが
あの時の惨状を目の当たりにして
私と限界状態を分け合った
たった一人の人だから