禁断兄妹
第88章 ギフト
時も息も止めたような表情の
灰谷さんへ
「灰谷さん、最初私は、あなたのことが怖かったです。柊との関係を知られて、強く非難されたから‥‥
でも、灰谷さんの存在も、いつか振り返ればきっと綺麗に繋がるんだって、私は信じていました。そして、その通りになりました‥‥」
今この時を迎える為には
誰一人欠けても成り立たなかった
灰谷さんが欠けていたら
絶対に成り立ってはいなかった
「灰谷さんがいてくれて、本当に良かったです‥‥」
強く引き結んでいる灰谷さんの唇が
震えた。
「それから、格闘家からパティシエに転身されたことも、記憶を取り戻したら、納得がいきました。
お店の名前、弟さんの名前からとられたんですね‥‥」
フランス語で
優しい希望
優希
お父さんが入院していた病院の中庭で
灰谷さんが話してくれた
弟の優希さんとの切ない物語
「‥‥はい‥‥」
「素敵なお店の名前だとは思っていました、だけど弟さんへの想いが込められていることには、気づかなかった‥‥すぐにわかってあげられなくて、ごめんなさい‥‥」
灰谷さんの大きな瞳が
堪えきれないように細くなって
目尻から
涙が零れた。
「‥‥子供の頃の私は、本当は、実家の洋菓子店を手伝いたいと思っていたんです。でも、優希が積極的に手伝っていたから、私の出る幕などないと卑屈な気持ちがあって‥‥」
「うん‥‥」
「でも萌さん、あなたが私達兄弟を救ってくれたことで、私は自分の気持ちに素直になりたいと思うようになりました。
格闘家としてもう十分強くなったから、今度は優希と一緒に店をやるような気持ちで、パティシエになりたいと‥‥」
込み上げる嗚咽を堪えて
途切れ途切れ
言葉を繋ぐ
溢れては零れ落ちる涙
子供みたいに純粋で
綺麗で
「灰谷さんの作るお菓子、大好きです。美味しくて、繊細で‥‥お二人の美しい心が込められているからですね」
「萌さん‥‥っ」
その表情を
くしゃりと泣き顔に歪めた灰谷さんは
触れることを許してください、と呟いて
灰谷さんの手を包んでいる私の両手へ
お辞儀をするように
その額をつけた。
「‥‥ありがとう、萌さん。僕のマリア‥‥」
真摯な声が
小さく聞こえた。