禁断兄妹
第89章 禁断兄妹
「オーナーですか?いえ、まだ来ていませんが‥‥」
KENTAROがオーナーをしているカフェは
街を見下ろす高台にあった。
昨日空港で和虎から手紙を受け取った俺は
そのまま北海道入りし、札幌で一泊
そして今日
KENTAROが比較的店にいる時間帯だと聞いた午後三時に合わせて
このカフェを訪れていた。
「そうですか‥‥」
店にいないことも多いと事前の情報収集でわかってはいたが
いるかも知れないと張り詰めていた緊張感が緩む。
建築やアートに造詣が深いKENTARO
それを物語るように外観も内装もセンスの良い店
俺は息を吐きながら高い天井を仰いだ。
店長だという若い男性は
KENTAROが店に来る曜日や時間は決まっていなく
来るとすれば午後三時くらい
しかし今日はまだ来ていないと教えてくれた。
「では、少し時間をつぶして、また来てみます」
「あ、あの、一ノ瀬柊さんですよね?オーナーとお約束があったのですか?」
「いえ、アポを取っていた訳ではありません」
KENTAROは人付き合いの良いタイプではない
もし断られてしまえば動けなくなる
俺はあえてアポを取らないことを選択していた。
「電話してみましょうか?家はこの近くなので、呼んだら来るかもしれません」
家も近くなのか
やはりそうか
「私の都合でお会いしたいので、時間をおいてまた来ます。ありがとう」
店の外に出ると
キンと冷えた空気に包まれ
暖かい店の中で一瞬温まった身体が
再び引き締まる。
白い息を吐きながら
俺は歩き出した。
時間をつぶす場所は
ここから歩いてすぐ
昔から何度も訪れている
通い慣れた場所
父さんと二人で
七年前からは俺一人で
そこは
母さんが
一ノ瀬夏巳が
眠る墓地