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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


「『楽をしたり、ずるしたりはしないこと。努力の積み重ねだけが、階段を作る』‥‥
 
 KENTAROさんは、私もよく存じ上げているような、世界的に活躍された有名なモデルさんです。大変な努力を重ねて階段を作り、登って来られた方なのだと思います。
 自分を磨き高め続け、これほど立派な階段を作り上げたKENTAROさんは、とても素晴らしい方だと思います。
 それでも、ご自分には何か資格が足りないと、思われているのでしょうか‥‥?」


静かな熱をこめ
萌はKENTAROに語りかける。

今この時に
この場所で
夢への階段の話を聞く奇跡

きっとKENTAROは俺以上に
心を揺さぶられている

見開かれた瞳は
瞬きもせず萌を見つめ

強く引き結んでいた唇が震えて
そして


「‥‥階段の話は、俺が考えた話だ‥‥夏巳はその話を気に入って、話してくれとよくせがまれた‥‥」


「そうだったんですか‥‥!」


萌は声を弾ませて
知ってた?と俺を見上げる。


「知らなかったな‥‥」


天性の美貌を武器に本能のままに生きてきたように見えるKENTARO
彼が考えた話だったことも

彼が萌に心を開き始めていることも

俺にとっては
思いがけない驚き

萌は輝く瞳をKENTAROへ向けて


「私も柊に教えてもらったこの階段のお話がとても好きで、自分の指針としてずっと大切にしているんです。
 こんな素敵なお話を考えて、しかも有言実行できるKENTAROさんは、やっぱり素晴らしい方だと思います」


萌を見つめるKENTAROの瞳が
切なく揺れた。


「俺は素晴らしくなんてない‥‥最低の男だ。それは夏巳が一番よくわかっている。
 ‥‥それより、もう一度聞かせてくれないか」


「え‥‥?」


「夢への階段の話を、もう一度俺に聞かせてくれないか」


「‥‥どうしてですか?」


「わからない。ただ、聞きたい」


「‥‥」


KENTAROは
萌に夏巳を見ている

萌の声に
夏巳を重ねている


「わかりました」


萌は素直に頷くと
KENTAROの望み通り
語り始めた。

白い世界に響く
萌の澄んだ声

聖なる歌の
ように

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