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禁断兄妹

第89章 禁断兄妹


───謙太郎へ

謙太郎
今あなたは幸せですか?
幸せなら、この先を読む必要はありません
でも、もし、私の為に今も苦しんでいるなら、読んでください

あの日あなたが私に刻みつけた愛は
それまで私がいだいていた
暖かく優しい家族のそれではなく
あなたの愛の真の姿
むきだしの愛そのものでした

その愛と共に
抗えない運命に対するあなたの怒りと悲しみも
深く刻まれた気がしました

私は痛みに狂い
絶望に打ちのめされ
この世の苦しみの全てを味わい尽くしたと思えるほどでした

しかし流れる時が
私の心身を洗うように通り抜けていくうちに
少しづつ苦しみは流れ去り
傷は清められていきました

旅立ちを間近に控えた今
私の胸の内に残っているのは
純粋な愛だけです

謙太郎
私達が共に過ごしたあの頃
今振り返ると豊かだったとはとても言えない環境でした
なのに私はいつも満ち足りていた
寂しさも不足もなかった
あなたが自分の分まで私に与え、守り、愛してくれていたからだと
今はわかります
でもあの頃はわからなかった
あなたの真の愛に気づくこともなく
ぬくぬくと生きていました

ごめんね
謙太郎

あなたが刻んだ愛を
今の私は
美しい碑文のように
いとおしくなぞっています

謙太郎
私は巽さんを愛しています
柊のことを愛しています
そして謙太郎
あなたのことを愛しています

あなたに対するこの感情は
愛という言葉でしか表せない
浮気や裏切りとは思いません
ただ
愛してる
愛してるわ
今この瞬間も
愛してる
私を信じて
素直な気持ちでこの愛を感じて欲しい

遠く離れてしまったあなたには
今の私の想いを伝える術がありません
あなたは自分に厳し過ぎるから
もう二度と会わないと決めたなら
必ずそれを貫く
私が許すと言っても
あなたは自分を許さない

そんなあなたをどうすれば救えるのだろう
私はずっと考えてきました

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