テキストサイズ

禁断兄妹

第35章 一人じゃない


「ん?」


「あなたが仕事ばかりしてたこと、俺は昔から恨んでた‥‥ごめん」


「‥‥」


「でも‥‥一人で暮らしてみて、金を稼ぐことがどんなに大変なことか、今ならわかる」


「そうか‥‥」


父さんは穏やかな表情で頷きながら
掛け布団の上で組み合わせた両手に視線を落とした。


「俺は‥‥仕事に逃げてきたんじゃないかって、思う時があるよ‥‥」


ぽつりと独り言のようにそう言って
父さんは微笑んだ。


「お前の学校の行事‥‥運動会とか、一度も見に行ったことなかったな‥‥」


「‥‥」


「‥‥ごめんな‥‥」


父さんが俺の方を見たのがわかったけど
俺は目を合わせることができずに
俯いて首を振った。


「お前、毎年、リレーの選手だって、言ってたよな‥‥」


「ははっ‥‥」


「すごいよなあ。見に行けば良かった‥‥お前は来なくていいって言うからさ、それを真に受けて‥‥俺は本当にバカだよ‥‥」


時を越えて
大きな手が遠慮がちに伸びて
あの頃の俺の頭を不器用に撫でる。

過ぎ去った時は戻らない
あの頃の俺が感じた失望は
今も胸の奥
溶けない雪のように降り積もったまま
消えることはないかもしれない

けれどこれからは
穏やかな気持ちでその雪を眺めることができる
きっと

ストーリーメニュー

TOPTOPへ