禁断兄妹
第35章 一人じゃない
「‥‥飲みに、行きたいな」
俺は呟いた。
「うん?」
「あなたと二人で‥‥一度飲みに行きたいよ」
俺は顔を上げて父さんを見た。
「‥‥俺も昔から、いつかお前とゆっくり飲んでみたいって、思ってたよ」
突然の俺の言葉にも驚かず
父さんは穏やかな笑顔で俺を見つめる。
でも頷かない
わかった、と言わない。
飲みに行けるような体じゃない
そう言いたげな表情
「行こうぜ。約束だ。言っとくけどその点滴のガラガラと一緒とかはやめてくれよ。元気になってくれ」
強引にそう言うと父さんは微笑んだ。
「‥‥家に戻ってくれるか?」
「それとこれとは、また別の話だ」
俺は笑いながら
首を横に振った。
「やっぱり、俺と美弥子が許せないか?だから───」
「違う。俺はもう、誰のことも憎んではいない」
「‥‥」
「女二人の生活は心配だから、ちゃんと見守るよ。でも家には戻らない‥‥これは俺なりのけじめだ」
「‥‥そうか‥‥」
父さんは
小さなため息をついた。
そして俺達はなんとなく黙って
二人で窓の外を眺めた。
父さん
やっとわかりあえたあなたに
もうすぐ死にゆくあなたに
隠し事などしたくはない
けれど
俺と萌の関係を知ってもなお
あなたは家に戻って二人を守ってくれと言うだろうか
言うはずがない
むしろ俺を憎み
俺から萌を守ろうとするだろう
だから
真実を口にしない代わりに俺は家には戻らない
これが俺なりの
けじめだ