禁断兄妹
第57章 会いたかった
駅までの道を歩きながら
柊が穏やかに話し始めたのは灰谷さんのことだった。
「この前の月曜日の朝‥‥萌が学校に行った後、あいつと少し話をしたんだ」
私が隠れて聞き耳を立てていたことを知らない柊
萌も知っておいたほうがいいから、と
会話の内容をのんびりと話し出す。
灰谷さんの過激な言葉は柔らかな表現に変えられて
───覚えておけ‥‥モデルなんて続けられないくらい、その自慢の顔を叩き潰してやる。それが嫌なら、萌さんには二度と手を出すな───
あの恐ろしい言葉もなかったことになっていた。
「悪魔だの何だの、散々な言われようだったなあ」
明るい口調
私にショックを与え過ぎないようにと
柊が言葉を慎重に選んでいるのがわかる。
「まあ、普通の家族として振る舞えば、あいつに俺達の関係なんてわかりっこない。その内誤解だったと思い直してくれるだろ」
「うん‥‥」
「母さんも今日からは気をつけて見てくれるだろうし。萌も俺が言ったこと、ちゃんと守るんだよ」
「あのね、柊」
「うん?」
私ね
灰谷さんに
私達のことを正直に話した方がいいんじゃないかって思うの
本当は優しい人なの
ちゃんと話せばきっとわかってくれると思うの
柊に相談しようって
この数日間ずっと考えていた言葉
けれど
「‥‥どうした?」
柊は真剣に私とのことを考えてくれている。
黙って柊の言う通りにするべきなのかも知れない。
「‥‥萌」
ため息が聞こえた。
「お前が思う以上に、あいつは危険な人間なんだよ。頼むから気をつけてくれ」
私の胸の内を察したのか柊は静かにそう言うと
私の頭を撫でた。
「うん‥‥」
頷いたけれど
迷いの霧は晴れなくて
冷えた空気を吸い込むと
胸の中がピリピリと痛んだ。
「灰谷の話はもう終わり。せっかく二人でいるんだ。萌の話が聞きたい」
柊は
学校や友達のことを聞かせてくれよ、と微笑んだ。
灰谷さんに話す道
話さない道
正しいのはどっちの道なんだろう
───一緒に長生きして、ずっと一緒にいよう───
そう言ってくれた柊
あなたを守ることができるのは
どっちの道なんだろう