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禁断兄妹

第57章 会いたかった


「‥‥抱きたい‥‥」


掠れ声の囁き
顎に当てられていた柊の人差し指が
猫の喉を撫でるように緩やかに動いて
胸の奥が震える。


「うん‥‥抱かれたい‥‥」


狂おしく絡まる視線
だけどそれは
向こうから走ってきた車のヘッドライトに照らされた瞬間
はっとして身体を離した私達の間で
蒸発して消えた。


「こんなところでする会話じゃないな」


柊は苦笑いしながら前髪をかきあげて


「行こうか」


「う、うん」


私達は再び歩き出した。


「‥‥和虎と飯を食いに行く約束なんか、しなきゃ良かった」


ため息混じりで空を見上げた柊
キャンセルして二人だけでいたいなあ、と呟いた横顔が
少年のようで可愛い。

思わず笑った私を
柊が恨めしそうに見下ろす。


「この熱くなった身体、どうしてくれるんだ‥‥今日は飯食いに行くだけで、泊まれないのに」


「ふふ」


「小悪魔萌だな‥‥」


触れたい気持ちは私も同じ
手を伸ばして柊のコートの裾を小さく握った。


「時間はこの先いっぱいあるから。今日は和虎さんと三人で、楽しく過ごしたいな」


そう言ったら
俺は今が大事なんだけどなあ、と苦笑して


「時間はこの先いっぱいある、か。確かにそうだけど、ちゃんと俺との時間作ってくれよ」


「うん。一緒に長生きしようね。あ、その為にもタバコはやめた方がいいと思う」


「長生き?ははっ、萌はスケールが違うなあ。しかもタバコやめてときたか」


柊は明るい声をあげて
本当に楽しそうにくしゃりと笑うと
その余韻の残る笑顔で私をじっと見つめた。


「そうだな‥‥やめようかな」


「うん!」


この上なく優しく柔らかな微笑みが
私を包み込む。


「一緒に長生きして、ずっと一緒にいよう」


深く真摯な声
まるでプロポーズの言葉のよう


「はい」


私も真剣に
心から頷いた。


「‥‥やばい、又抱きたくなってきた」


私達は顔を見合わせて笑った。

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