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禁断兄妹

第57章 会いたかった


「ところでさ、柊兄」


それとなく俺を促して
レジ前から離れた和虎が声をひそめる。


「こんな時にごめん。由奈のことなんだけど‥‥」


それきり黙って俺を見る和虎
言いたいことはわかっている。


「あいつにはちゃんと会って、話をするつもりだ」


俺は萌に宣言した通り
身体の関係を続けていた数人の女にもう会わないと電話をして
全て清算していた。

どの女とも最初から合意の上での関係だったけれど
由奈とは直接会って終わらせたかった。


「そっか‥‥ごめん、こんなこと口出しして。今の柊兄なら、ちゃんとわかってるよね」


今の柊兄なら

その言葉が身に染みる。


「あの子本当に柊兄のことが好きで、一生懸命だから‥‥できるだけ誠意を見せた別れかたをして欲しい」


「ああ。わかってる」


戻って来る萌の姿が見えて
俺達はさりげなく身体を離した。


「さ、帰ろっか!」


和虎が明るい声を上げ
萌をエスコートし扉へ向かう。

その後ろに続いて歩きながら

───ごめん‥‥どうしても会いたかったの───

真っ直ぐに俺を見上げた由奈の顔が浮かんだ。

そして
冷ややかな微笑を浮かべた
さっきの男の顔も。

───ずっとお会いしたいと思っていたものですから‥‥つい力が入ってしまって───

薄く笑ったあの男が見せた
突き刺すような鋭い眼差し

俺の右手には瞬間的に強く握られた痛みが
痺れのように今もまだ残っていた。

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