禁断兄妹
第57章 会いたかった
「お時間を頂きましてありがとうございました。では、失礼します」
男は俺に向かってにこやかに一礼すると
レジに何枚かの札を置き
釣りはいらないという身振りをして店を出て行った。
「‥‥今の壮絶なイケメン、何者?」
離れて見ていたらしい和虎が近寄ってくる。
「二人が握手してるツーショット、すごい迫力だったよ。ちょっと怖いくらいだった」
「娘が俺のファンだってさ‥‥嘘だか本当だか知らないけどね」
サインや写真を求める訳でもなく
結局何が言いたいのかわからなかった。
「ふーん。デカイし業界の関係者かと思った。
‥‥ねえお姉さん、今の男の人、見たことある?」
和虎に問い掛けられた店員は首を振った。
男は初めて見る顔で
俺と萌が店に入った後にふらりと一人で店に入ってきて
飯を食った後静かに酒を飲んでいたという。
見知らぬ人から声を掛けられることはよくあるし
好意的な態度が全てじゃないことにも慣れてはいるが
男が自分で言った通り俺の後を追うように店に入り
こんなにも長い時間俺を待っていたという事実は
決して心地いいものではなかった。