禁断兄妹
第58章 嵐の夜
「由奈、お前柊の部屋に行ったのか」
真夜中にかかってきた
事務所のオーナーからの電話
静かな声に滲む失望と疲労の色
ベッドの中で眠りにつきかけていた頭と身体が一瞬で覚醒し
跳ねるように上半身を起こした。
フランスから帰ってきた柊君の部屋へ行ったのは
一週間ほど前のこと
「撮られてたんだ。じき店に並ぶ」
帽子を被り
眼鏡をかけ
ドアを開けた柊君の部屋に入る私
数時間後に部屋から出てくる私
全て撮られてると告げるオーナーの声が
大きくなっていく心臓の音にかき消されて
遠くに聞こえる。
お前の将来の為だから
柊君とはもう会わないと約束した時
そう優しく言ってくれたオーナー
「すみま‥‥せん‥‥」
それだけ言うのが
やっとだった。
「あのな、由奈。記事は柊との関係に絡めて、お前の生い立ちに焦点を当ててる。
‥‥実家が暴力団だと言うのは、本当なのか?」
「‥‥!!」
「由奈‥‥?もしもし?」
手の中から滑り落ちた携帯
真っ暗な部屋のベッドの上で四角い光を放ち
私を呼ぶ。
震える手で拾い上げて
「はい‥‥」
オーナーは黙ったまま
私の答えを待っている。
「‥‥実家のことは、事実です。今まで黙っていて、すみませんでした‥‥」
ようやく声を振り絞ると
オーナーは深くため息をついて
そうか
そうか
残念そうに何度も繰り返した。
「由奈‥‥すまんがお前との契約は解除する。明日からの仕事は全部白紙だ」
身体中から抜けていく力
再び携帯が手から落ちた。
暴力団はまずいんだ
わかってくれ
重苦しくもきっぱりとした声が
小さな塊から聞こえた。