禁断兄妹
第60章 嵐の夜③
「やめて‥‥柊君には手出ししないで」
恐怖に喉が締まり声が掠れた。
ゆっくりと振り返った修斗
目が据わっている。
「クソガキには指一本触れねえよ‥‥それでも俺は、あいつの息の根を止めることができる」
「どういう意味?何をする気」
修斗は答えずに口の端を上げた。
ぞっとするような冷たい微笑み
「柊君は何も悪くないわ、悪いのは全部私よ‥‥煮るなり焼くなり、私を好きにして」
「そんなことをしても、俺の気は済まない」
「修斗‥‥柊君に何かしたら、あんたを許さない」
冷酷な薄笑いは消えて
その氷のような三白眼がまっすぐに私を射抜く。
「許さなければいい。目付役も今日で降りる。
‥‥さよならだ、嬢」
いつもの冷ややかな声に滲む
燃えるような決別の意志
私に背を向け歩きだす。
「修斗っ」
止められない
わかっていても痺れる足を引き摺り必死に追いすがった。
「私は柊君を憎んでも恨んでもいないわ!私と同じ目に合わせるだなんて、そんな敵討ちみたいなことはやめて───」
「お前と同じ目じゃねえ」
ドアノブに手をかけた修斗から
独り言のような低い声が聞こえた。
「えっ‥‥」
───お前と同じ目じゃねえ───
思いがけない言葉に
一瞬虚をつかれた。
「‥‥俺と、同じ目に合わせるんだよ‥‥」
修斗がドアを抜けながら呟いた。
でもあまりに小さなその最後の言葉は
私に向けたままの背中と閉まりゆくドアに遮られて
「しゅ、修斗‥‥っ?」
私には聞き取ることができなかった。