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華のしずく~あなた色に染められて~

第3章 【華のしずく】~夏雷~

「殿―」
 涙と微熱で潤んだ珠々の瞳に浮かんだ涙の雫を唇でぬぐいながら、信成は笑った。
「わしには、薬よりもこの方が効くらしい」
 その時、頭上はるかに高く、雷鳴が轟いた。そっと空を見上げれば、鈍色の厚い雲の帯が幾重にも重なっていた空に時々閃光が走っている。既に梅雨時にはなっていたけれどよりにもよって、こんなときに雷など鳴らねば良いのにと、珠々はひそかにお天道様を恨めしく思った。幼い頃から、珠々は雷が大の苦手だったのだ。

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