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華のしずく~あなた色に染められて~

第4章 【華のしずく】~試練~

「殿―ッ」
 珠々がそれを振り払い、もう一度叫んで、信成の顔を見た。今しも珠々が敵兵に連れ去られようとする間際、信成はすっと手を差し出した。
 武人もののふらしい大きな手のひらは、数々の戦で受けた疵痕が無数に残されていた。しかし、珠々が驚愕したのは、その疵ゆえではない。彼の無骨な手には、ひと房の黒髪が添えられていた。いつのまに切ったのだろうか、その髪は信成のものに違いなかった。

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