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華のしずく~あなた色に染められて~

第8章 【雪の華~華のずく~】 三

 それにしても、貞心院はこうしてすべての人々をこの笑顔で魅了してきたに違いない、と、徳姫は思った。徳姫の記憶にある限り、秀吉は身分の上下に拘わらず気さくに誰にでも対するし、〝女好き〟と噂されるようにあまたの側妾を常に侍らせてもいるが、少なくとも、いくら寵愛の厚い女性にでも何かを賜るといったことは滅多とない。
 それなのに、敗戦国の将の妻にすぎない貞心院にいきなり豪奢な打ち掛けを贈るとは、普段の秀吉からは考えられないことである。

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