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華のしずく~あなた色に染められて~

第9章 【蜩(ひぐらし)~華のしずく~】

 迷子になったおふうの耳に、間断なく轟く銃声が聞こえ、幼い彼女を怯えさせた。楓を探すことを諦めて戻ろうにも、帰り道すら判らなくなってしまった。真夏のこととて、歩き続けたおふうは全身汗まみれで、粗末な着物がじっとりと肌にはりつくようであった。
 遠く響いてくる兵たちの怒号や銃声に混じって、忙しない蜩の声が響いてくる。その鳴き声がやけに哀しげに聞こえるのは、おふうの気のせいであったろうか。

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