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華のしずく~あなた色に染められて~

第24章 【夕桜~華のしずく~】其の参~山梔子(くちなし)の夜~

「そなた、まだ兄上のことが忘れられぬのか」
 その問いには応えず、帰蝶は言った。
「どうか―もう、お許し下さいませ」
 帰蝶の白い頬をひとすじの涙がつたう。
 苦しかった。憎い男との夜に身体は馴れきっても、心だけはしんと冷めている。秀康に抱かれていると、まるで身体と心が真っ二つに引き裂かれてしまいそうになる。
 そして、帰蝶が秀康の前で乱れまいとすればするほど、秀康は帰蝶の肌が秀康に馴染んできていることを彼女に認めさせようと、容赦なく責め立て、狡猾に立ち回る。

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