片想いの行方
第55章 変わらない“2人”
ヒメは振り返らず、歩いて行ってしまう。
「……っ」
待って……
だって今日は………
「……蓮くん、ごめんなさい。
せっかく逢えたけど、私行かなきゃ」
ヒメの後ろ姿を気にしながら、私は続ける。
「今ここにいるのは、ヒメと約束してたからなの。
おとといから決めてて……あ、私今ヒメと同じ会社で……って知ってるよね。
えっと……」
「いいよ。早く追いかけな」
焦ってうまく話せない私に、蓮くんは優しく微笑んだ。
「……いきなり抱きしめてごめん。
姿が見えた時には離れてたし、あいつは見てないから大丈夫だよ」
「…………!」
「俺、年が明けて1月いっぱいは国内にいるから。
また連絡する」
蓮くんの手が私の背中を優しく押す。
私は促されるまま、一歩足を踏み出した。
「……蓮くんありがとう。 ……じゃあまた……」
「美和」
歩き始めたところで、後ろから蓮くんに呼ばれる。
「逢えて嬉しかった。
………ずっと気になってたから。
本当に綺麗になったな」
「……………っ」
蓮くんはもう一度笑うと、スーツケースを持って、本社のある高層ビル街へと歩いていく。
私はしばらくの間、その後ろ姿を見つめていたけど
ハッと我に返って、蓮くんと反対の方向へ走りだした。