片想いの行方
第55章 変わらない“2人”
「あー笑ったから腹減った。
早く店連れてけよ」
「………………」
………行くんじゃん!
心の中で突っ込んだけど
今日はこのヒーローへの恩返しの日だから。
私はその言葉を飲み込んで、スタスタと歩き出した。
「何の店?つーか既に1時間くらい遅刻じゃね?」
ヒメはいつものしれっとした感じに戻っている。
……本当はオシャレなイタリアンでも行こうかと思ってたけど。
あの頃と変わらない態度で接してくるヒメを見てたら、背伸びするのがバカらしくなってきた。
「もとから予約してないもん。
高架下の飲み屋さんなら、どこか入れそうじゃない?」
「高架下の飲み屋!?
お前、まさかそれがお礼とか言うんじゃねーだろーな」
ヒメの言葉にも私は動じない。
どうせいつもは他の女の子と素敵なお店に行ってるんだろーし。
なんとなく抵抗したくなった。
「だって、今の気分はビールに焼き鳥なの」
「お前の気分関係ねーだろ」
「何本でも頼んでいいよ」
「……あの救出劇が鳥と同等かよ……」
そんな訳ない。
これからも恩返しを続けさせてほしい。
平日の夜にこうして肩を並べて誰かと歩けることが、何よりも嬉しいから。
……でも、それを言えない私は、やっぱりヒメの前だと素直になれないな……
「……まぁ、美和が行きたい所なら、俺はどこでもいいよ」
ヒメがふいに言った言葉に、トクンと胸が鳴る。
………また、あの頃と同じ気持ちになるなんて……
もう2度と揺れることは無いと思っていたのに
ヒメと歩きながらも、まだ微かに残るもう1人のヒーローの香りが
私の胸を締め付けていた。