テキストサイズ

片想いの行方

第60章 裏HERO

蓮くんと一夜を共にし、始発に乗って一度家に帰ったあの日以来。

お互いに年末の仕事が立て込んでいて、メールと電話だけの遣り取りをしていた。



おとといの電話で、海外の仕事のイザコザが片付いていないって言ってたけど

今のメールの通り、結局現地に行かなきゃならなくなったんだ。



今日仕事が終わったら、どこかで食事をする予定だったけど

用意や準備もあるだろうし、大丈夫なのかな……





そんな事を考えながら、携帯をバッグの中にしまっていると





「……美和ちゃん!」




入口から、血相を変えた奈々さんが走ってきた。




「奈々さん、どうし……」

「一条が来てるわ」




私の肩をがしっと掴んで、奈々さんは低い声で言った。




「……………!」





ドクっと心臓が鳴る。





「……さっきまで社長室に居たらしいんだけど、今は総務で何やら手続きしてるみたい。

異様な雰囲気で、状況を聞けなかったんだけど……

とにかく美和ちゃん、ここから出ちゃダメよ!」






奈々さんの話を聞いて、足が俄かに震えだす。



……あの日以来、一度も音沙汰のなかった彼が、今この下のフロアに居る。






………………






少しの間沈黙した後、私は静かに口を開いた。






「……私、行ってきます」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ