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12cm~越えられない距離~

第14章 傷ついたのは…

大島先生との話が終わって、さっき彫刻刀を研いでいた場所に戻った。

何故だろう?

もう研ぐ気が湧いてこない。

道具を片付けて荷物を取ると、美術室を出てため息をひとつ溢した。

「繚平?」

振り向くと、沢尻が追いかけてくる所で。

「先生、何か言ってたか?」

「いや…俺、しばらく部活休むわ。手もこんなだし」

左手を顔の横にかざして見せると

「何か言われたんだろ」

苦虫を噛んだような表情を浮かべた。

「俺らが保健室行ってる間、近藤がパニック起こして収拾つかなかったらしいぜ?」

あぁ、それで帰らされたのか。

それで部員の態度も変だったんだな。

「大丈夫。心配するなって」

沢尻に笑いかけて、帰ろうとすると、沢尻が叫んだ。

「繚平!お前は被害者なんだからな!!」

沢尻の言葉が追い付かないように、俺は目をつぶってその場を立ち去った。

傷を負ったのは俺だ。

背中を押したってきっかけを作ったのは近藤かもしれないけど…。

それで近藤が心を痛めている?

体の傷と、心の傷。 被害者と加害者。

一番深く傷ついたのは誰だ!?

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