テキストサイズ

12cm~越えられない距離~

第9章 絵を描く、という事

家に戻ってきて、母親が夕飯を作っている間、店番をしていた。

閉店時間まで一時間切った辺りから客数はぐっと減り…今は誰もいない。

店内をざっと掃除して、商品の陳列を整頓し…あとは閉店時間を待つだけ。

俺はスケッチブックを取り出すと、続きを描き出した。

遠目で見て、シルエットとか動きの流れは解るんだけど、細かい所がな…。

特に指の形。やっぱりアキの手を見せてもらえばよかった。

俺の手と、何か違うんだよな…。

自分の掌を見ていると、

「…手、どうかしたの!?」

奥から出てきた母親が、俺の様子を見て声をかけてきた。

「ちょっと見てただけ」

「ケガしてないならいいけど」

母親はそう言うと、時計を見て

「繚平、もうそろそろお店締めようか」

と言った。

「分かった」

返事をして、店の外を簡単に掃除して、シャッターを下ろした。

だからその間に、母親がスケッチブックの中を見ていたなんて、ちっとも気付かなかったんだ。

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