溺れる愛
第9章 花火
それから合宿も慌ただしく過ぎていき、
約束のハグもしないまま最終日を迎えた。
(本当…早かったな、この一週間…)
俊哉との夢の時間も、もうすぐ終わると思うと自然に気持ちが落ちてしまう。
最終日の予定を聞いていない芽依は
いつも通りTシャツにハーフパンツにパーカーを羽織って大広間へ向かった。
『おはようございます』
扉を開けると、そこには数名の部員しかおらず
いつもジャージ姿だったのに皆私服を着ていた。
「おはよう」
俊哉がにっこりと挨拶を返してくれて、それだけで胸が高鳴るのを感じる。
『あの…他の皆さんは…?』
席につきながら俊哉に伺うと、彼はあのギャップのある笑顔で答えてくれた。
「ごめんね。本当は今日、1日オフなんだ」
『え!そうなんですか?』
「うん。毎年最終日はオフで、自由行動だから」
(そうだったんだ…)
よくよく見ると、今日の俊哉はカットソーにGパンという一度も見たことのない私服姿で
思わずドキッとしてしまう。
(私服姿だと…余計に大人っぽく見える…)
また知らなかった彼の一面を見られたことが嬉しくて
ついつい緩みそうになる頬を引き締めた。
「それでさ、約束覚えてる?」
『…約束…ですか?』
何の事だろうと、キョトンとした顔を向けると
俊哉は優しく笑って教えてくれた。
「電話で言ったこと覚えてない?」
(電話……?)
その時、脳裏に浮かんだのは
那津に翻弄される自分の姿で、思わず顔が引きつってしまう。