
溺れる愛
第10章 距離
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「…ぃ……おい、着いた」
『…えっ?』
ガバッと飛び起きると、どうやら電車は終点までたどり着いていた。
「お前、頭重すぎ。肩凝った」
(嘘…私…寝てた!?)
いつの間にか自分も寝てしまっていたようで
どうやら先に起きた那津の肩を、今度は芽依が借りてしまっていたらしい。
『ご、ごめん…大丈夫…?』
「あー…まぁ。ほら早くしろよ」
(あれ…?いつもならもっと何か言ってきそうなのに…)
今日の那津はやけに大人しい。
そして、当然の様に芽依の荷物を抱えて先に下車してしまう。
『あ、いいよっ!自分で持つから…!』
慌ててその後を追うも、那津は涼しい顔で
「いいから。後でもっと疲れるから
今は体力温存しとけ」
『疲れる…?』
そこでまた、那津のあの意地悪な行為が脳裏を過ぎる。
それと同時に頬が熱くなるのを感じた。
「お前…何エロい事考えてんだよ」
すかさず那津が意地悪な表情でこちらを見てきて
芽依は焦って否定した。
『し、してない!変な事言わないで!』
「ふーん?ま、お前がしてほしいなら
今ここでしてやろうか?」
その言葉にまた顔が熱くなるも、変な汗がどっと噴き出る。
『い、いい!!しなくていい!!』
そんな芽依の慌てっぷりを、さぞ可笑しそうに那津は喉で笑っていた。
(なんか…いつもこんな調子で
結局こいつのペースに乗せられてる気がする…)
先行き不安になりながらも、その後は黙って那津の後に続いた。
