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溺れる愛

第10章 距離




海の家は、毎年波瑠が和人と一緒に営んでいるらしく
那津もまた毎年手伝いをさせられているのだとか。

それでも人手が足りず、今回芽依が助っ人で参加する形だった。


通された店の中のテーブルで、那津と向かい合ってコーラを飲みながら
ざっと一通りの流れを説明してもらう。



『ねぇ。やっぱり美形には美形が寄ってくるのかな?』


「は?何急に」


『だって!波瑠さん凄く綺麗だし、和人さんもイケメンだし、あんたも顔だけはいいし』


「何それ。そんなに俺の顔好き?」


『は!?違うわよ!顔だけはって言ったでしょ!一般論よ!』


「まーこの中だとしたら、間違いなくお前は最下位だな」


『…いちいち言われなくてもわかってるもん』



こんな小競り合いをしていると、クスクスと笑う声が聞こえてきて
カウンターの中から波瑠と和人が微笑ましくこちらを見ていた。


「仲良いのね。なんだか私も若い頃を思い出すなぁ」


(やだ…今の見られてたんだ…恥ずかしい)


「ほら、これ着けて」


那津から手渡されたエプロンを腰に巻き付けて
メモ帳とペンをそのポケットに差し込んだ。


「お前は注文とって料理運んで。何かあったらすぐ言えよ」


『うん…なんか、今優しかったね?』


この言葉に、那津は少しだけ意地悪な顔をして


「まぁ海に来てる男なんて、ナンパ目的が大半だからな。
けど…お前には関係ねぇか」


その言葉には“お前は相手にされない”という意味が含まれているのが充分にわかる。


『…私だって一応声かけられた事くらいあるんだからね!』


負け惜しみの様に放った言葉が、なんとなく情けなく感じて
ここは、完全に那津に敗北だ。



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