
溺れる愛
第10章 距離
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『つ…疲れた……』
ようやく客足が引いた頃、店の椅子に腰掛けて
机に突っ伏してうなだれた。
芽依の予想を遥かに上回る忙しさで
目が回りそうな程走り回った。
すると、頬に冷たい何かを当てられて、驚いて顔を上げると、那津がコーラの瓶を差し出してきていた。
『あ…ありがと…』
「な?俺の言った通り、体力温存しといて良かっただろ?」
那津も自分のコーラを飲みながら芽依の隣の椅子に座る。
『うん…忙しすぎてびっくりしちゃった。
人手が足りないのもわかる気がする』
時刻はそろそろ夕方の5時を迎えようとしていて
次第に海辺の人々も少なくなってきている。
なんとなく長閑な空気が流れて
2人は黙ったまま海を眺めていた。
(風が気持ちいい…)
着いてすぐにお手伝いを始めたので、ゆっくり海を堪能するのは今が初めてだ。
「2人ともお疲れさま。今日はもう後片付けだけでいいから、それまで少し遊んできたら?」
波瑠がカウンターから出てきて労いの言葉をかけてくれる。
「せっかく海に来たんだし。足だけでも入っておいで」
和人からもカウンター越しにそう言われ
チラッと那津を伺うと、彼はふぅと短く息を吐いて
「じゃ、行くか」
と席を立ってしまった。
「ほらほら芽依ちゃんも!行っておいで!」
『あ、はい…っ』
波瑠に背中を押されて、芽依も那津の後に続いた。
